分散型とは、複数のコンピューターが協調して1つのシステムを形成することによって、信頼性や可用性、スケーラビリティを高めることを目的とした技術やシステムのことである。
分散型技術の一例としては、分散型ファイルシステムや分散型台帳技術(ブロックチェーン)、分散型ストレージ、分散型データベース、分散型取引所(DEX)、分散型金融(DeFi)などがある。
分散型技術を用いることで、中央集権型システムに比べてシステムの耐障害性が向上するだけでなく、個人情報や取引情報などの機密性を高めることができる。またネットワーク内のノード同士が直接通信し、信頼関係を確立することができるため、中央集権型システムに比べて攻撃に強く、改ざんされるリスクが低くなる。
目次
分散型とは?
分散型のシステムが持つ特徴についてまとめることができる。
- 中央集権的な管理を必要としない:分散型のシステムは、中央機関を介さずに自律的に機能するため、中央集権的な管理が必要ない。参加者全員が同じ情報を共有し、取引を行うことができる。
- 改ざんや偽装が困難になる:分散型のシステムでは、ブロックチェーン技術を用いて取引履歴を保存するため、改ざんや偽装が困難になる。データの透明性が高まり、不正な取引を防止することができる。
- 取引の速度が向上する:分散型のシステムでは、多数のノードが同意を必要とするため、取引速度が遅くなる場合があるが、技術の発展により、高速な取引が可能となってきている。
- 匿名性が高いため、プライバシー保護が可能:分散型のシステムは匿名性が高いため、個人情報が漏洩することがなく、プライバシー保護が可能となる。
- 低い取引手数料:中央機関を介さずに取引が行われるため、取引手数料が低く抑えられる。
- 政府や金融機関などのコントロールを受けない:分散型のシステムは中央機関を介さないため、政府や金融機関などのコントロールを受けずに自由な取引が可能となる。
- 分散型金融(DeFi)による金融サービスの提供:分散型金融(DeFi)は、中央機関を介さずに金融サービスを提供することができる。ブロックチェーン技術により、貸出や保険などが低コストかつ高速に行われるため、より透明性と信頼性が高い金融サービスを提供することができる。
分散型のメリット・デメリット
メリットとして以下のものがある。
- 中央集権的な管理から自律的に機能する:権限や管理を持つ中央機関の存在が不要であるため、自律的かつ分散的なシステムが実現できる。中央機関が存在しないため、政府や金融機関などのコントロールを受けずに自由な取引が可能となる。
- より高いセキュリティが確保される:分散型のネットワークにより、ネットワーク上のデータが多数のノードに分散して保存されるため、攻撃者がシステムにアクセスしようとした場合にも、多数のノードの同意が必要となる。また、ブロックチェーン技術により、改ざんや偽装が困難になり、データの透明性が高まる。
- 低コストかつ高速な取引が可能になる:中央機関を介さずに取引が行われるため、取引手数料が低く抑えられる。ブロックチェーン技術により、取引の承認や処理が迅速に行われるため、高速な取引が可能となる。
- 透明性が高まる:分散型のネットワークにより、参加者が全員が同じ情報を共有することができ、取引の透明性が高まる。データの改ざんが困難になるため、不正な取引を行うことができなくなる。
- 分散型金融(DeFi)による金融サービスの革新が期待できる:暗号通貨を利用した金融サービスが展開されることで、より透明性と信頼性が高まる。貸出や保険などが分散型で行われることで、より低コストかつ高速なサービスが提供される。
デメリットとして以下のものがある。
- 匿名性が高いため、不正な取引や犯罪活動が行われる可能性がある:分散型のシステムは匿名性が高いため、不正な取引や犯罪活動に悪用される可能性がある。また、匿名性が高いため、トラブルが発生した場合に取引相手を特定することが困難になる。
- 規制面での問題が指摘されている:分散型のシステムは中央機関を介さずに取引が行われるため、規制上の問題が指摘されている。政府が介入することができないため、悪用される可能性がある。
- セキュリティ上の問題が存在する:分散型のシステムにも、セキュリティ上の問題が存在する。ハッキングや不正アクセスによるデータの改ざんや流出が起こる可能性がある。
- 取引速度が遅い場合がある:分散型のシステムでは、多数のノードが同意を必要とするため、取引速度が遅くなる場合がある。特に、規模が大きくなると取引速度が遅くなる可能性がある。
- 初期コストが高い:分散型のシステムの構築には、初期コストがかかる。特に、ブロックチェーン技術の導入には高度な技術力が必要となるため、初期コストが高くなる可能性がある。
分散型の取り組み
ブロックチェーンに関連する技術の中で、分散型と言われるものとして「DLT」「DAO」「DeFi」「DEX」「分散型ストレージ」「分散型データベース」がある。
DLT(分散型台帳技術)
- 台帳が分散化されている:DLTは、データを中央機関で管理するのではなく、分散化された台帳上にデータを格納する。台帳は複数のノードによって管理され、透明性が高く、改ざんが困難である。
- 暗号化によってセキュリティが高い:DLTでは、暗号化技術が使用され、セキュリティが高い。データを暗号化することで、不正アクセスや改ざんなどのリスクを軽減することができる。
- スマートコントラクトによる自動化が可能:DLTでは、スマートコントラクトを使用して自動化が可能である。スマートコントラクトは、契約内容を自動で実行するため、信頼性が高く、取引の効率が向上する。
- トランザクションの透明性が高い:DLTでは、トランザクションが透明であるため、不正な取引や脱税などが防止される。ブロックチェーンによって、全ての取引履歴が記録されるため、取引に対する監査が容易になる。
- 取引コストが低く抑えられる:DLTでは、中央機関を介さないため、取引コストが低く抑えられる。銀行や決済業者を介さないため、手数料が低く、利用者にとってメリットがある。
- 無制限なスケーラビリティが可能:DLTでは、複数のノードによって管理されるため、スケーラビリティが高い。ノード数を増やすことで、処理速度が向上し、より多くの取引を処理することができる。
- 新しいビジネスモデルの可能性がある:DLTは、中央集権的なビジネスモデルを変革する可能性がある。取引や契約の自動化により、新しいビジネスモデルが生まれることが期待される。
DAO(分散型自律組織)
- DAOは「分散型自治組織」を意味する略語であり、ブロックチェーン技術を利用して自己運営する組織を指す。
- DAOは中央集権的な組織とは異なり、コンピュータープログラムで運営されるため、自動化された意思決定と投票システムによって運営される。
- DAOは非常に柔軟であり、投票者の多数決によって決定が下されるため、メンバーやステークホルダーの誰もが主体的に参加できる。
- DAOは、スマートコントラクトを使用して実行され、トランザクションはブロックチェーン上で実行されるため、透明性と信頼性が高い。
- DAOは、様々な目的のために利用される。例えば、投資ファンド、グローバル組織、オンラインプラットフォーム、ゲーム、およびNFT市場などがある。
- DAOは、ブロックチェーン技術の成熟によって、2020年代後半にはますます重要性を増すことが予想されている。
また以下の様なプロジェクトでDAOが取り組まれている。
- Aragon:オープンソースのプラットフォームで、DAOを作成、管理、実行するためのツールを提供する。
- DAOstack:DAOの設立や管理を容易にするためのフレームワークで、スマートコントラクトに基づいているため、透明性と信頼性が高いである。
- MakerDAO:暗号通貨のステーブルコインであるDAIを発行している。ユーザーはDAIを預金し、その担保としてETHを使用する。DAOは、DAIの価値を維持するために、価格変動に応じてETHの担保を調整する。
- MolochDAO:コミュニティメンバーが投票して、共通の目的のために資金を集めることができるDAOである。目的は、たとえば開発者のサポートやプロジェクトの進行状況を報告するためのインフラストラクチャの構築などである。
- GnosisDAO:デジタルアセットや暗号通貨に対するトレーディングプラットフォームを開発するプロジェクトである。DAOメンバーは、GNOトークンを保有することで投票権を得ることができる。
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DeFi(分散型金融)
- 中央機関を介さずに金融サービスを提供:DeFiは、中央機関を介さずに金融サービスを提供するため、参加者同士が直接取引を行うことができる。
- ブロックチェーン技術により、セキュリティが高い:DeFiは、ブロックチェーン技術により、セキュリティが高く、改ざんや不正な取引が防止される。
- 低コストで取引が可能:DeFiは、中央機関を介さないため、手数料が低く、より効率的な取引が可能となる。
- 貸出や保険などの金融サービス:DeFiは、貸出や保険などの金融サービスを提供することができる。ブロックチェーン技術により、より透明性が高く、信頼性のあるサービスが提供される。
- プライバシーの保護:DeFiは、匿名性が高いため、プライバシーが保護される。取引履歴が公開されるため、透明性も高く、不正な取引が防止される。
- グローバルな参加者:DeFiは、インターネットに接続された端末があれば、誰でも参加できる。グローバルな参加者が存在するため、より多様な取引が可能となる。
- 今後の発展が期待される:DeFiは、まだ発展途上の分野であり、今後の技術の発展や規制環境の整備により、さらなる成長が期待される。
またDeFiのプロジェクトとして以下のものが挙げられる。
- Uniswap:分散型取引所。ユーザーは自分のウォレットを介して取引を行うことができる。また、流動性提供者はトークンの所有権を保持しながら手数料を得ることができる。
- MakerDAO:Daiと呼ばれるステーブルコインを発行するプラットフォーム。Daiは1ドルにペッグされた価値を持っている。
- Compound:貸出/借入プラットフォーム。ユーザーは保有するトークンを担保としてローンを取り、利子を受け取ることができる。
- Aave:分散型レンディングプラットフォーム。ユーザーは資金をレンドすることができ、担保として異なる種類の暗号資産を使用することができる。
- Yearn.finance:資産管理プラットフォーム。ユーザーは自動的に最も高いリターンを提供する分散型レンディングプラットフォームを見つけるためにアルゴリズムに頼ることができる。
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DEX(分散型取引所)
- 中央機関を介さずに取引が行われる:DEXは、中央機関を介さずに取引が行われるため、参加者同士が直接取引を行うことができる。取引がオンチェーンで行われるため、セキュリティが高く、取引履歴が透明である。
- プライバシーが保護される:DEXは、匿名性が高いため、プライバシーが保護される。個人情報が漏洩することがなく、取引履歴も秘匿されるため、より安全な取引が可能となる。
- 取引手数料が低く抑えられる:DEXは、中央機関を介さないため、取引手数料が低く抑えられる。また、多数の取引が行われるため、参加者同士が低い価格で取引を行うことができる。
- 参加者が自由にトークンを追加できる:DEXは、トークンの追加が自由であるため、参加者が自由にトークンを取引することができる。ユーザーによっては、新興トークンに投資することができる。
- セキュリティが高い:DEXは、中央機関を介さないため、ハッキングなどのリスクが低い。また、ブロックチェーン技術により、不正な取引が防止され、取引履歴が透明である。
- 海外の参加者とも取引が可能:DEXは、世界中の参加者とも取引が可能であるため、より多様な取引が行われる。国境を超えた取引が可能であるため、より自由な取引が行われる。
- まだ発展途上の分野である:DEXは、まだ発展途上の分野であり、今後の技術の発展や規制環境の整備により、さらなる成長が期待される。
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DEXとして以下のプロジェクトがある。
- Uniswap:EthereumベースのDEXであり、自動マーケットメイキング機能を備えている。
- PancakeSwap:Binance Smart Chain(BSC)上で動作するDEXであり、スワッピング、ステーキング、フリッピングなどの機能を提供している。
- SushiSwap:Uniswapのフォークであり、マーケットメイキング機能に加えて、ステーキング、レンディング、マージン取引などの機能を提供している。
- 1inch:複数のDEXを統合し、ユーザーに最良の価格を提供する自動ルーティングシステムを備えたDEXアグリゲーターである。
- Curve Finance:ステーブルコインのトレーディングに特化したDEXであり、安定した価格を維持するためにマーケットメイキングアルゴリズムを使用している。
- Kyber Network:EthereumベースのDEXであり、ERC20トークンのトレーディングに特化している。
- Bancor:EthereumベースのDEXであり、自己流動性機能を備え、ユーザーがトークンを直接交換できるようにする。
Distributed storage(分散型ストレージ)
- 分散型ストレージは、複数のコンピューターまたはサーバーにデータを格納するシステムである。
- 伝統的な中央集権型ストレージとは異なり、分散型ストレージは信頼できる第三者が存在しないため、より安全でセキュアである。
- 分散型ストレージは、ブロックチェーンなどの分散型技術を使用して構築される場合がある。
- 分散型ストレージは、コンピューターの障害や攻撃に対する強力な耐久性を持つ。1つのノードが攻撃されても、他のノードからデータを復元することができる。
- 分散型ストレージは、クラウドストレージに比べて低コストであり、拡張性が高いである。
- 分散型ストレージは、オンラインストレージ、バックアップ、データ分析、IoTなど、多くの用途に適している。代表的な分散型ストレージシステムには、IPFS、Storj、Swarm、MAIDsafe、Siaなどがある。
- 分散型ストレージは、現在はまだ新しい技術であり、性能の改善が必要な場合がある。また、慣れないユーザーには専門的な知識が必要な場合がある。
なお以下のプロジェクトが分散型ストレージに取り組んでいる。
- IPFS(InterPlanetary File System):P2Pネットワーク上で分散型ファイルシステムを提供するプロジェクトで、中央集権化されたサーバーを必要とせず、高速かつ安全なデータ交換を可能にする。
- Filecoin:IPFSを基盤としたプロジェクトで、ストレージプロバイダーがストレージスペースを提供し、需要者がそれを購入することで、分散型ファイルストレージ市場を形成する。
- Sia:P2Pネットワーク上で動作する分散型ストレージプラットフォームで、データは暗号化され、ユーザーが所有権を持つ。
- Storj:分散型ストレージネットワークを提供するプロジェクトで、複数のストレージプロバイダーによってファイルが保管される。
- MaidSafe:P2Pネットワーク上で動作する分散型データ管理プラットフォームで、ユーザーは自分自身のデータを保管することができる。また、セキュリティやプライバシーに重点を置いている。
分散型データベース
- 分散型データベースは、データの冗長性を確保し、単一障害点を排除することにより、高い可用性を実現する。
- 分散型データベースは、データの安全性を確保するために、データを複数の場所に保存する。
- 分散型データベースは、スケーラビリティに優れている。新しいノードを追加して容量を増やしたり、古いノードを取り外して容量を減らすことができる。
- 分散型データベースは、データの更新や削除が容易ではない。これは、各ノードが同じコピーのデータを保存しており、データが不整合にならないようにするためである。
- 分散型データベースは、一定のレイテンシが発生する可能性がある。ネットワークの帯域幅や遅延によるもので、データが複数のノードに保存されるためである。
- 分散型データベースは、クラウドネイティブなアプリケーションやマイクロサービスアーキテクチャに適している。
- 分散型データベースが、複数のアプリケーションやサービスに対して一貫性のあるデータを提供できるためである。
- 分散型データベースの例としては、Apache Cassandra、Amazon DynamoDB、Google Cloud Spannerなどがある。
分散型データベースとして以下のプロジェクトがある。
- Apache Cassandra:分散型データベース管理システムで、非常にスケーラブルで高性能なシステムを提供する。Apache Cassandraは、分散型アーキテクチャを使用して、データを多数のノードに分散して保存することができ、高可用性と耐久性を備えている。
- Amazon DynamoDB:AWSが提供する、マネージド型の分散型データベースサービスの一つで、高可用性とスケーラビリティを備えている。DynamoDBは、ホスティング、パフォーマンス、およびバックアップなどの手間を省き、シームレスな拡張性を提供することができる。
- Google Cloud Spanner:グローバルに分散されたリレーショナルデータベースで、Googleが開発・提供している。分散トランザクションの処理に特化し、大規模で高可用性なアプリケーションに最適化されている。スケーラビリティに優れ、自動シャーディングによって、データの読み書きを高速に行える。また、リージョン間のレプリケーションにも対応しており、地理的な冗長性と高可用性を実現する。
- BigchainDB:ブロックチェーンテクノロジーを使用して分散型データベースを構築するプラットフォームで、高速でスケーラブルなデータ処理を実現する。
- Apache Cassandra:分散型データベース管理システムで、データの可用性と耐久性を高めるために複数のサーバーにデータを分散保存する。
- Arweave:ブロックチェーン技術を利用して分散型のパーマネントなストレージを提供する。
- CockroachDB:分散型SQLデータベースで、リアルタイムでのレプリケーションや高可用性、スケーラビリティを実現する。
- ScyllaDB:分散型NoSQLデータベースで、高速な読み書き、リアルタイムのレプリケーション、スケーラビリティを提供する。
- Hedera Hashgraph:分散型台帳技術で、高速なトランザクション処理やセキュリティ、公正性を実現する。